何のためにあるか
タイル選択方式では、並べる語が混同しにくいと天井に張り付いて何も測れません。
Clopper, Pisoni & Tierney (2006) J Am Acad Audiol 17(5), N=206:
混同しにくい選択肢では 92%の天井、音韻的に混同しやすい 6〜12個の選択肢では 60% に戻る。
著者自身が「より混同しやすい選択肢を含むテストの開発」を推奨しています。
B8 はこれを受けて、日本語母語話者の実際の誤り分布(/l/-/ɹ/、/æ/-/ɛ/、母音挿入)から作ることを
要求しています。
🔒 現状はそれを満たしていません
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 混同語の総数 | 1,018個(206項目、1項目あたり 3〜7個) |
| B8 が名指しする置換型の対立を含むもの | 15個(2.4%)(第1期 124項目・610個での実測) |
| 音素1つの挿入・脱落を含むもの | 61個(10.0%)(同上) |
| 既知の対立を1つも含まない項目 | 76 / 124項目(同上) |
| 対象語との正規化音素距離 | 中央値 0.40(同上) |
| タイル数が Clopper の 6〜12 を外れる項目 | 0 / 206項目(実測 7〜12 枚) |
⚠️ 上の「対立を含む割合」は第1期 124 項目での実測です。2026-09-06 に足した 82 項目は
CMUdict の音素で近傍を取っており(第1期は espeak-ng)、転写系が違うので同じ表に混ぜていません。
82 項目ぶんの再集計は未了です。
残りの約88%は綴りと音韻からの推定です。
🔒 タイル選択は採用しません(当てずっぽうで当たるため)
2026-09-05 に、タイル選択を使わないことに決めました。Stage B は書き取り(入力形式)だけです。
理由は完走率でも好みでもなく、音を聞かなくても当たるからです。
画面に並ぶタイルは「断片に出てくる語」+「混同語」で、7〜12枚(206項目の実測)。
選べる枚数は断片の語数(4〜6枚)で、同じ語を何度でも選べます。
| 押し方 | 正答率 |
|---|---|
| 適当に押す | 39.0%(項目別 29.8〜50.7%) |
| 対象語に似た語(=混同語の塊)だけを押せるだけ押す | 73.4%(24項目は100%) |
| 入力形式で適当に打つ | ほぼ 0% |
どちらも実装そのものを動かして出した値です。下の押し方は悪意ではありません。
「迷ったので候補を2つとも押す」がそのまま正解になります。
これは §14.3 の A/B(入力 vs 選択)を成立させません。
採点規則を揃えて交絡を1つ取り除きましたが、床の差は採点規則では消えません。
床が 39〜77 ポイント違う2形式を比べても、測れるのは形式の差ではなく床の差です。
復元率 R への効きも同じです。回答形式は項目ごとに割り当たるので、
1人の R にタイル項目が混ざります。真の復元率0.5・項目の半分がタイルなら、
観測される R は約0.60(cs は約20%高く出ます)。上振れは弱い人ほど大きく、
定数を引いて直せる種類の歪みではありません。
タイルを作り直してから戻します。Clopper et al. (2006) が示したのは
「対象語+混同しやすい妨害語を6〜12個並べ、1つだけ選ばせる」設計で、床は 1/m(12〜25%)と明示的です。
いまの実装は「断片の語を並べ替えさせる」形なので、そこから離れています。
1択の閉集合に作り直したうえで、「開集合(書き取り)vs 閉集合(1択)」として登録し直します。
なぜ人手で直せないか
聞き間違いは意識に上りません。日本語母語話者の校閲者も、自分がどう聞き間違えるかを
内省では出せません。ここで人を1日座らせても、綴りと音韻からの推定しか出てきません。
さらに、多音節語には最小対が英語の語彙に存在しません。
CMUdict 全12万語を総当たりしても、representation satisfaction photograph のような語には
音素が1つだけ違う実在英単語がありません。既知の対立を含まない76項目のうち、
最小対を追加できたのは2項目だけでした。
B8 の要求は、短い語でしか厳密には満たせません。
どう直すか
タイルを出さないので、選択率(並べた語のどれが選ばれたか)はもう取れません。
代わりに書き取りの生入力を集計して、「対象語の代わりに何と書かれたか」から
日本語話者の混同行列を自前で作ります(→ /facts/data)。
並べなかった語も拾えるので、選択率より情報が多くなります。それまでは暫定値です。
取り除いたもの
- 同音異綴の混同語 13個(11項目)。対象語と発音が完全に一致するので、
正しく聞き取った受験者ほど選んでしまい、タイル選択では原理的に答えられません。
buildは音声に入っている語形そのものが混同語に入っていました(正解が2枚ある状態) - 英語頻度が極端に低い混同語 7個。タイルバンクに置くと別の負荷になります
- 同音異綴として正答にすると決めた綴り 1個(
presenceのpresents)。
規則2で正答にする綴りを混同語にも置くと、タイルに正解が2枚並びます
この工程で作れないもの
🔒 選択率は「並べた混同語の中で何が選ばれたか」であって、
並べなかった語が選ばれたかどうかは分かりません。
本当の混同行列を作るには、タイプ入力の生入力を集計して
「対象語の代わりに何と書かれたか」を見る必要があります。